「劣後債発行体が破綻したとき、弁済の順位が普通の債券より後回しになる債券です。その分だけ利回りが高く設定されます。 詳しく見る →のコールは実質確実」「コールスキップは金融危機時のテールリスク」——当サイトでは銀行の劣後債(B3T2銀行の自己資本規制で「補完的資本」に算入できる劣後債です。10年満期・5年後コール(10NC5)が典型で、実質破綻時には元本が毀損する条項が付いています。 詳しく見る →・AT1銀行の劣後債よりさらに資本に近い永久債です。利払いは銀行の裁量で停止でき、経営危機時には元本が削減されます。2023年のクレディ・スイスでは実際に全損しました。 詳しく見る →)のコールの力学を解説してきました。しかし、個人向け市場にはもう一つ、別の生き物がいます。事業会社が発行する「ハイブリッド債債券と資本の中間の性質を持つ証券です。銀行は法規制、保険はソルベンシー、事業会社は格付け上の資本性と、発行の理屈がそれぞれ異なります。 詳しく見る →」です。代表例はソフトバンクグループが個人向けに発行してきたハイブリッド社債(利払繰延条項・期限前償還満期より前に、発行体が債券を額面などで償還できる条項のことです。劣後債では「最初のコール日に償還するのが慣行」ですが、義務ではありません。 詳しく見る →条項付社債)です。名前も見た目も銀行の劣後債に似ていますが、コールを支えるロジックが根本的に違います。本稿ではその違いを整理します。
結論:何がコールを「約束」させているかが違う
| 銀行 B3T2 | 銀行 AT1 | 保険会社 | 事業会社(SBGなど) | |
|---|---|---|---|---|
| コールを動機付ける仕組み | バーゼル規制(法規制) 残存5年未満で資本算入が逓減 | 規制上の逓減はない(永久債のため)。借換の経済合理性と市場からの信認 ※バーゼルIII上、償還を促すステップアップは付けられない | ソルベンシー規制+格付会社の資本性評価 | 格付会社の資本性評価のみ(法規制なし)+ステップアップ条項 |
| 典型的な年限設計 | 10NC5 | 永久債(PerpNC5・PerpNC10など) | 30NC5・35NC5など | 超長期(35NC5など) |
| 利払いの扱い | 通常の利払い義務(繰延条項なし) | 非累積・発行体の裁量等で停止があり得る | 繰延条項あり(累積型が多い) | 任意繰延条項あり(累積型が多い) |
| 危機時の元本毀損条項 | 実質破綻時債務免除特約 | CET1比率トリガーでの元本削減・株式転換+実質破綻時条項 | 実質破綻時免除特約あり | 原則なし(劣後性のみ) |
表の通り、ひとくちに「銀行の劣後債」と言っても、B3T2(10NC5・利払い義務あり)とAT1(永久債・利払い非累積・元本削減条項あり)は別物です。個人向けに販売される国内の銀行系劣後債はB3T2が中心で、AT1はさらにリスクの重い商品類型です。この2つを混同しないことが、劣後商品を理解する第一歩になります。
事業会社のハイブリッド債を支えるのは「格付会社との約束」
事業会社には自己資本比率規制がありません。ではなぜ35年もの超長期・劣後・利払繰延という商品を設計するのでしょうか。答えは格付R&IやJCRなどの第三者機関が、発行体の「約束どおり支払う力」を記号で評価したものです。AAAが最上位で、個人向け社債はA格前後が中心です。 詳しく見る →会社の「資本性評価(エクイティ・クレジット)」です。R&IやJCRは、劣後性・年限の長さ・利払繰延の仕組みなどを満たしたハイブリッド債について、調達額の一部(たとえば50%)を負債ではなく「資本」とみなして格付けを評価します。発行体債券を発行してお金を借りる企業・政府・機関のことです。債券投資は「発行体にお金を貸す」ことにあたります。にとっては、株式を発行せず(希薄化なしで)、格付け上の資本を厚くできる調達手段ということです。
そしてこの資本性評価は、初回コール日を過ぎると低下していく設計になっています。さらに、コールしなかった場合に利率が引き上がるステップアップ条項と、「同等以上の資本性を持つ手段で借り換える」というリプレースメントの考え方がセットになっており、初回コール日での償還満期を迎えて、額面のお金が投資家に払い戻されることです。と借り換えが、格付けを維持するための事実上の前提として組み込まれています。結論としての「初回コールが基本」は銀行と同じですが、それを支えているのは法規制ではなく、格付けと市場からの信認です。
ソフトバンクグループの個人向けハイブリッド債
この商品類型を個人向け市場で最も活用してきたのがソフトバンクグループです。当サイトの発行履歴データベースによれば、同社のハイブリッド系(利払繰延・期限前償還条項付)は2021年の2.75%、2023年の4.75%、そして2026年6月発行の第9回(35年債・当初利率5.12%)へと、利率水準を切り上げながら継続発行されています。2026年の個人向け社債で最高利率だったのも、このハイブリッド第9回です。
「35年」という年限に驚くかもしれませんが、上で見た通り、これは資本性評価を得るための設計であり、市場では初回コール日(発行5年後など)までの債券として値付けされ、取引されるのが前提です。ただし強調しておきたいのは、その前提を保証する法規制は存在しないということです。コールの実行は、発行体の経済合理性・格付け戦略・市場からの評判に委ねられています。銀行の劣後債よりも一段、発行体の意思への依存度が高い商品と理解しておく必要があります。
投資家がチェックすべきポイント
- 初回コール日と、その後の利率の決まり方(ステップアップの有無・幅)を目論見書債券の発行条件やリスクを記載した法定の開示書類です。購入前に必ず交付されます。 詳しく見る →で確認しましょう
- 利払繰延条項:発行体の任意で利息を繰り延べられます。累積型(後でまとめて支払われる)か非累積型かは決定的に重要です
- 高利率の分解:たとえば5%超の利率は「劣後性+超長期化リスク(エクステンション)+利払繰延リスク+発行体の信用力」の合計対価です。銀行AT1のような元本削減条項がない点はリスクが一段軽い一方、その分は利率にも反映されています
- 同社の普通社債との利回り差:同じ発行体の普通社債(SBG第70回・7年債など)と比べて、上乗せ分がこれらのリスクに見合うかを考えましょう
まとめ
銀行の劣後債と事業会社のハイブリッド債は、「劣後・コール付き・高利率」という見た目は同じでも、コールを支える構造が「法規制」か「格付けと評判」かという点で本質的に異なります。ソフトバンクグループのハイブリッド債を検討する際は、銀行劣後債の常識をそのまま当てはめず、この商品固有の設計を目論見書で確認してください。
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本稿は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘を目的としたものではありません。個別の商品性は必ず目論見書等の原資料をご確認ください。
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