個人向け社債の平均利率と発行額の推移(2020〜2026年)|全265銘柄データ分析

個人向け社債の平均利率と発行額の推移(2020〜2026年)|全265銘柄データ分析 【上級者向け】社債の実務と分析

個人向け社債の利率は、この6年でどれだけ変わったのか。本稿では、当サイトが独自集計した発行履歴データベース(2020年9月〜2026年9月・全265銘柄)を用いて、円建て個人向け社債市場の発行件数・平均利率・発行額の推移を定量的に確認します。結論から言えば、この市場は「復活」ではなく「誕生」に近い変化を遂げています

サマリー:6年で何が起きたか

  • 平均利率は0.59%→2.33%へ約4倍(2020年→2026年、税引前)
  • 発行件数は年19件→51件へ約2.7倍。2025年・2026年は年50件ペースが定着
  • 年間発行額はピークの2025年で約2.4兆円。マイナス金利末期(2020年)の4倍超
  • 3〜5年債の平均利率は0.24%(2021年)→2.34%(2026年)へ約10倍

発行件数と平均利率:右肩上がりの6年

個人向け社債の発行件数と平均利率の推移(2020-2026)

マイナス金利政策下の2020〜2021年、個人向け社債市場は年20件前後・平均利率0.6%前後の細々とした市場でした。0%台の利率では個人の預金を動かす力がなく、発行体債券を発行してお金を借りる企業・政府・機関のことです。債券投資は「発行体にお金を貸す」ことにあたります。にとっても個人向けに販売網を使うインセンティブが乏しかったためです。

転機となったのは2022年以降の金利正常化です。利率が1%を超えたあたりから発行件数が増え始め、平均利率が2%台に乗った2026年には、件数・利率がともに過去最高圏となった。「予定利率が預金金利より明確に高い」という個人向け社債の本来の商品性が、ようやく機能し始めたと言えます。

年間発行額:2025年に約2.4兆円へ

個人向け社債の年間発行額の推移(2020-2026)

金額ベースではさらに変化が大きくなっています。2020年(9月以降)の約0.5兆円に対し、2025年は約2.4兆円。ソフトバンクグループの5,000億円級をはじめ、メガバンク・信託グループの劣後債発行体が破綻したとき、弁済の順位が普通の債券より後回しになる債券です。その分だけ利回りが高く設定されます。 詳しく見る →(1,000億円級)が定期的に個人市場で消化されるようになったことが寄与しています。発行体にとって個人マネーは、もはや「補完的な調達先」ではなく主要チャネルの一つです。

年限別に見る:3〜5年債の利率は10倍になった

年限ゾーン2021年2023年2026年
1〜2年0.91%(7件)1.17%(9件)1.75%(18件)
3〜5年0.24%(8件)0.74%(22件)2.34%(24件)
7年以上0.68%(5件)1.38%(7件)3.31%(3件)
劣後(コール付)1.55%(2件)1.68%(7件)3.48%(6件)

個人向け社債の中心ゾーンである3〜5年債の平均利率は、2021年の0.24%から2026年の2.34%へ、実に約10倍になりました。100万円を5年債に投じた場合の年間利息(税引前)が2,400円から23,400円になった計算で、「わざわざ買う理由」の水準が根本的に変わったことがわかります。

なお2021年に1〜2年債の平均(0.91%)が3〜5年債(0.24%)を上回っているのは、期間構造が逆転していたわけではありません。短期ゾーンには無格付けR&IやJCRなどの第三者機関が、発行体の「約束どおり支払う力」を記号で評価したものです。AAAが最上位で、個人向け社債はA格前後が中心です。 詳しく見る →・小規模発行体(証券会社系の縁故的な社債など)が多く含まれ、その信用リスク発行体が利子や元本を約束どおり支払えなくなるリスクです。債券投資の中心的なリスクで、格付けやスプレッドで値付けされます。分の上乗せが平均を押し上げているためです。平均値を見るときは「どの発行体群の平均か」を常に意識してください

各年の最高利率銘柄は、すべてソフトバンクグループ

最高利率銘柄利率(税引前)
2021年ソフトバンクグループ 劣後債(第5回)2.75%
2022年ソフトバンクグループ 第58回無担保社債2.84%
2023年ソフトバンクグループ 劣後債(第6回)4.75%
2024年ソフトバンクグループ 第64回無担保社債3.15%
2025年ソフトバンクグループ 第67回無担保社債3.98%
2026年ソフトバンクグループ ハイブリッド社債(第9回)5.12%

集計期間中、年間最高利率の銘柄は6年連続でソフトバンクグループでした(普通社債・劣後債・ハイブリッド債債券と資本の中間の性質を持つ証券です。銀行は法規制、保険はソルベンシー、事業会社は格付け上の資本性と、発行の理屈がそれぞれ異なります。 詳しく見る →のいずれか)。高利率は高い信用リスクの対価である、という市場の原則をこれほど分かりやすく体現している発行体は他にありません。同社債の位置づけについてはIT企業の社債分析も参照してみてください。

スプレッドの推移:利率は4倍、信用の値段はほぼ横ばい

ここまで見てきた「利率」の上昇は、どこまでが市場金利(国債利回り)の上昇で、どこまでが社債固有の上乗せ(スプレッド国債など基準となる金利への「上乗せ幅」のことです。発行体の信用リスクと流動性の対価で、社債の値段の本体といえます。 詳しく見る →)の変化なのでしょうか。各社債の条件決定投資家の需要を見ながら、仮条件の範囲内で実際の利率などが確定することです。日の同年限国債利回り(財務省「国債金利情報」)を引いて、年別の平均スプレッドを集計しました。先に断っておくと、年限も格付けも劣後・普通の別も混在させた単純平均なので、これは大づかみの傾向を見るための乱暴な数字です。本来は同年限・同格付けで揃えて比べるべきもので、以下の読みもその粗さを前提にお読みください。

平均利率平均スプレッドスプレッド中央値備考
2020年0.59%+0.69+0.66マイナス金利期(絶対値決めが主流)
2021年0.67%+0.78+0.47同上
2022年0.91%+0.89+0.73金利正常化の入口
2023年1.07%+0.91+0.95スプレッドのピーク
2024年1.29%+0.76+0.74
2025年1.68%+0.72+0.61
2026年2.37%+0.75+0.60〜9月上旬

結論は明快です。平均利率は0.59%から2.37%へ4倍になりましたが、平均スプレッドは+0.7〜0.9%の範囲でほぼ横ばい。利率上昇の正体はほぼ全額がベース金利の上昇で、市場が個人向け社債の発行体に要求する「信用の値段」は、この6年でほとんど変わっていません。細かく見れば2023年に+0.9台のピークを付け、2024年以降は+0.7台に縮んでおり、金利が上がって利率の絶対水準が見栄えするようになった分、発行体は薄いスプレッドでも個人の需要を集められるようになった——という構図が読めます。

ひとつ注意があります。2021年以前のマイナス金利期は、国債利回りへの上乗せで利率を決める「スプレッド値決め」ではなく、利率の絶対水準(0.1%、0.3%など)で条件を決める「絶対値決め」が主流でした。特に国債利回りが深いマイナスだった5年以下の年限ではほぼ絶対値決めです。そのため2020〜2021年のスプレッドは「信用の値段」というより「個人投資家が受け入れる最低利率」の反映で、2022年以降と同列には比べられません。格付け帯ごとのスプレッドの階段は格付けの記事に、個別発行体のスプレッド実測はソフトバンクグループ債の分析にまとめています。

市場拡大の構造:なぜ発行体は個人に売るのか

市場拡大の背景は金利上昇だけではありません。機関投資家生命保険会社・銀行・年金基金など、大量の資金を運用するプロの投資家のことです。債券市場の売買の大部分を占めます。市場では、投資家ごとに発行体別の投資枠(クレジットライン)があり、頻繁に発行する大型発行体ほど枠が埋まりやすくなります。個人市場は、この「枠の制約」の外側にある巨大な資金プールであり、発行体は金利のある世界の到来とともに、その開拓を本格化させました。ソフトバンクグループが先行して築いたこの調達モデルに、メガバンク劣後債、リース、電力と続いた構図です。

投資家への示唆

  • 選択肢は過去最多。年50件超の発行があり、格付け・年限・利率の比較で選べる市場になりました
  • 利率が上がっても原則は不変。高い利率は必ず何か(信用力・劣後性・流動性売りたいときに、すぐ適正な価格で売れるかどうかの度合いです。流動性が低い銘柄ほど売買のコストが大きくなります。)の対価です
  • 取扱証券会社は銘柄ごとに異なる。人気債は初日完売も多く、口座の事前準備が実務上の第一歩になります

個別銘柄の条件は発行履歴データベースで全銘柄を公開しています。募集中の銘柄はトップページをご覧ください。

出所:各発行体・引受証券会社が発行体から債券をいったん買い取り、投資家に販売することです。引き受ける証券会社の集まりを引受団と呼びます。証券会社の公表情報を基に当サイト集計。2020年は9月以降、2026年は9月上旬までのデータ。平均利率は利率が確認できた銘柄の単純平均(変動利率・レンジ表記の銘柄は当初利率等で近似)。本稿は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘を目的としたものではありません。

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コメント

  1. […] 上回るようになったこと。2021年まで社債の平均利率が0.6%前後だった時代とは違います(利率の推移)。第二に、それでも余裕は1%未満で、物価が3%に戻れば固定金利の大半は実質マイナ […]