結論:電力債(残存3年)のスプレッド国債など基準となる金利への「上乗せ幅」のことです。発行体の信用リスクと流動性の対価で、社債の値段の本体といえます。 詳しく見る →(国債への上乗せ)は2020〜2025年の5年間、+0.25〜+0.39%の狭いレンジでほぼ横ばいでした。同じ期間に3年国債利回りは▲0.15%から+1.16%まで約1.3%上がりましたが、電力債の利率もそのままスライドしただけで、信用リスク発行体が利子や元本を約束どおり支払えなくなるリスクです。債券投資の中心的なリスクで、格付けやスプレッドで値付けされます。への値付けはほとんど動いていません。一方、三菱UFJFG・みずほFG・三井住友FGの個人向け劣後債発行体が破綻したとき、弁済の順位が普通の債券より後回しになる債券です。その分だけ利回りが高く設定されます。 詳しく見る →(10年債・初回コール5年)は違います。スプレッドは2020〜2022年の+0.47〜0.74%から、2023年に+0.93〜1.01%まで急拡大し、その後2024〜2025年にかけて+0.58〜0.81%まで縮小しています。同じ「上乗せ」でも、電力債とメガバンク劣後債では動き方がまったく違う——本稿では当サイトの発行履歴データベースに財務省の国債金利情報を突き合わせ、その実測値を並べます。
前提:スプレッドは「同じ条件決定日・同じ年限の国債」との差で見る
社債の利率は「同じ年限の国債利回り+発行体債券を発行してお金を借りる企業・政府・機関のことです。債券投資は「発行体にお金を貸す」ことにあたります。の信用リスクへの上乗せ(スプレッド)」でおおむね決まります(スプレッドの読み方)。ベース金利である国債利回りは日銀の金融政策で大きく動くので、利率の絶対水準だけを時系列で比べても、市場がその発行体をどう見ているかは分かりません。見るべきは条件決定投資家の需要を見ながら、仮条件の範囲内で実際の利率などが確定することです。日のその日の、同じ年限の国債利回りを引いた残りです。本稿では財務省「国債金利情報」の各条件決定日の値を使い、電力債(残存3年の普通社債)は3年国債と、メガバンク劣後債(10年債・初回コール5年)は初回コール日である5年後を基準に5年国債と比較しています。劣後債を最終償還満期を迎えて、額面のお金が投資家に払い戻されることです。年限ではなくコール年限で評価するのは、コールされる前提で市場が値段を付けているためです(コールの読み方)。なお「10.3NC5.3」「10.33NC5.33」のような端数年限は利払い日を半年ごとにそろえるための調整で、初回コールがおよそ5年後である点は変わりません。
実測①:電力債(残存3年)のスプレッド——5年間ほぼ横ばい
四国電力・北海道電力・東北電力の3年債は、ほぼ年2回のペースで安定して発行されており、同じ年限・似た格付けR&IやJCRなどの第三者機関が、発行体の「約束どおり支払う力」を記号で評価したものです。AAAが最上位で、個人向け社債はA格前後が中心です。 詳しく見る →の発行体が時系列で並ぶ貴重なデータです。
| 条件決定日 | 発行体(格付け) | 回号 | 利率 | 3年国債利回り(同日) | スプレッド |
|---|---|---|---|---|---|
| 2020/7/8 | 四国電力(A+/R&I) | 第311回 | 0.14% | ▲0.149% | +0.29 |
| 2020/12/4 | 北海道電力(A/R&I) | 第368回 | 0.13% | ▲0.143% | +0.27 |
| 2021/6/4 | 四国電力(A+/R&I) | 第316回 | 0.13% | ▲0.130% | +0.26 |
| 2021/12/3 | 四国電力(A+/R&I) | 第318回 | 0.13% | ▲0.119% | +0.25 |
| 2022/6/3 | 四国電力(A+/R&I) | 第322回 | 0.20% | ▲0.059% | +0.26 |
| 2022/12/1 | 北海道電力(A/R&I) | 第384回 | 0.36% | ▲0.010% | +0.37 |
| 2023/6/2 | 東北電力(A+/R&I・AA/JCR) | 第559回 | 0.32% | ▲0.069% | +0.39 |
| 2023/12/1 | 四国電力(A+/R&I) | 第329回 | 0.40% | 0.075% | +0.33 |
| 2023/12/1 | 北海道電力(A/R&I) | 第389回 | 0.45% | 0.075% | +0.38 |
| 2024/6/7 | 四国電力(A+/R&I) | 第330回 | 0.65% | 0.387% | +0.26 |
| 2024/11/29 | 北海道電力(A+/R&I) | 第398回 | 0.91% | 0.608% | +0.30 |
| 2025/5/30 | 東北電力(A+/R&I・AA/JCR) | 第575回 | 1.17% | 0.810% | +0.36 |
| 2025/7/9 | 四国電力(A+/R&I) | 第333回 | 1.11% | 0.807% | +0.30 |
| 2025/12/5 | 四国電力(A+/R&I) | 第336回 | 1.44% | 1.161% | +0.28 |
スプレッドは+0.25〜+0.39の範囲に収まっており、5年間で最も狭かった月(2021年12月、+0.25)と最も広かった月(2023年6月、+0.39)の差はわずか0.14%です。この間に3年国債利回りは1.3%以上動いているので、電力債の利率が上がったのはほぼ全額がベース金利の上昇によるもので、電力会社への信用不安が強まったわけではありません。もうひとつ興味深いのは、北海道電力です。2020〜2023年はR&Iの格付けが四国電力より1段低い「A」でしたが、スプレッドは同じA+の四国電力とほぼ同水準(2020年12月はどちらも+0.27)でした。北海道電力は2024年にA+へ格上げされていますが、その前後でもスプレッドの水準自体は大きく変わっていません。個人向け電力債の市場では、格付けの1段差よりも「電力債という商品区分そのものへの根強い需要」の方が価格形成に効いているとみられます。
実測②:メガバンク劣後債(10年債・初回コール5年)のスプレッド——2023年に急拡大、その後縮小
三菱UFJFG・みずほFG・三井住友FGは、個人向けの劣後債(いわゆるTier2債)を年1〜2回、ほぼ横並びの条件で発行しています。3社をまとめて時系列で見ると、電力債とは違う動きが見えます。
| 条件決定日 | 発行体(格付け) | 回号 | 利率 | 5年国債利回り(同日) | スプレッド |
|---|---|---|---|---|---|
| 2020/9/11 | 三菱UFJFG(A+/R&I) | 劣後27回 | 0.58% | ▲0.094% | +0.67 |
| 2020/10/14 | みずほFG(A+/R&I) | 劣後24回 | 0.560% | ▲0.103% | +0.66 |
| 2021/7/16 | 三菱UFJFG(A+/R&I) | 劣後29回 | 0.345% | ▲0.123% | +0.47 |
| 2022/7/15 | 三菱UFJFG(A+/R&I) | 劣後31回 | 0.718% | 0.032% | +0.69 |
| 2022/10/13 | みずほFG(A+/R&I) | 劣後26回 | 0.825% | 0.090% | +0.74 |
| 2023/1/20 | 三菱UFJFG(A+/R&I) | 劣後33回 | 1.209% | 0.198% | +1.01 |
| 2023/3/1 | 三井住友FG(A+/JCR) | 劣後15回 | 1.168% | 0.219% | +0.95 |
| 2023/6/29 | みずほFG(A+/R&I) | 劣後29回 | 1.015% | 0.085% | +0.93 |
| 2023/9/1 | 三菱UFJFG(A+/R&I) | 劣後35回 | 1.204% | 0.222% | +0.98 |
| 2023/10/13 | 三井住友FG(A+/R&I) | 劣後17回 | 1.276% | 0.322% | +0.95 |
| 2024/7/2 | みずほFG(AA-/R&I) | 劣後31回 | 1.358% | 0.630% | +0.73 |
| 2024/7/12 | 三井住友FG(AA-/R&I) | 劣後19回 | 1.393% | 0.586% | +0.81 |
| 2024/8/30 | 三菱UFJFG(AA-/R&I) | 劣後37回 | 1.303% | 0.502% | +0.80 |
| 2025/7/15 | 三菱UFJFG(AA-/R&I) | 劣後41回 | 1.796% | 1.085% | +0.71 |
| 2025/10/10 | 三井住友FG(AA-/R&I) | 劣後21回 | 1.813% | 1.231% | +0.58 |
| 2025/10/16 | みずほFG(AA-/R&I) | 劣後33回 | 1.820% | 1.214% | +0.61 |
3社とも同じ形が見えます。2020〜2022年は+0.47〜0.74程度、2023年に+0.93〜1.01まで一段跳ね上がり、2024〜2025年にかけて+0.58〜0.81まで縮小しています。ピークの三菱UFJFG劣後33回(2023年1月、+1.01)は、2年前の劣後29回(2021年7月、+0.47)の2倍以上のスプレッドです。2023年前半は、3月の米国地銀の経営破綻や、スイスの金融機関の資本性証券(その他Tier1債)が特別な処理で無価値になった件をきっかけに、銀行の資本性証券・劣後債全般への警戒が世界的に強まった時期でした。日本のメガバンク劣後債のスプレッドがこの時期に集中して拡大しているのは、この警戒の波及と整合的です。
その後の縮小には、もうひとつ理由があります。表の格付け欄を見ると、3社とも2024年半ばにかけてR&IのA+からAA-へ格上げされています。格上げと同時期にスプレッドが縮小方向に転じているので、2024〜2025年の縮小は「2023年の警戒が薄れた」ことと「発行体の格付けが実際に上がった」ことの両方が効いているとみられます。それでも2025年時点のスプレッド(+0.58〜0.71)は、2021年の水準(+0.47)までは戻っておらず、劣後債への上乗せは長期的にはまだやや厚い状態です。
電力債と劣後債、動き方が違う理由
同じ「国債への上乗せ」でも、両者の性格は違います。電力債は普通社債で弁済順位が優先、発行体は地域独占に近い事業基盤を持つ規制業種です。劣後債は弁済順位が後ろで、実質破綻時免除特約などにより元本が毀損しうる商品性を持ち、発行体の健全性への市場の見方が変わると、スプレッドがより敏感に動きます。電力債のスプレッドが5年間で0.14%しか動かなかったのに対し、劣後債のスプレッドは同じ期間で0.5%以上動いています。スプレッドの「振れ幅」自体が、その商品が抱えるリスクの大きさを映していると読むこともできます。
新発を検討するときに見る点
- 利率の絶対水準ではなく、同じ商品区分の過去のスプレッドと比べる。「利率が高い」だけでは、ベース金利が上がっただけなのか、上乗せが厚くなったのかが分かりません
- 電力債のような普通社債は、スプレッドが動きにくい商品区分。今のスプレッドが過去のレンジの中にあるかどうかを確認する程度で足ります(既発債の条件一覧で他の年限・発行体とも比較できます)
- 劣後債は格付け変更(格付けの読み方)とセットでスプレッドの水準が変わる。次の格付け変更の有無は、新発条件を評価する材料になります
- 劣後債の年限表記は初回コールで見る。「10NC5」は実質的に5年債として値付けされているので、比較する国債の年限もコール年限に合わせます(年限の考え方)
- 次に条件決定された分は、当サイトの発行履歴データベースで随時追加していきます。同じ表に一行足せば、そのときの上乗せの水準がすぐ分かります
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の勧誘ではありません。条件は各発行体のIR資料、証券会社の商品ページ、財務省「国債金利情報」の公表資料に基づきます。
新しい募集が公表された日・利率が決まった日・募集が始まった日の3回、条件の要点(利率・年限・格付け・募集期間・取扱証券会社)をメールで届けます。人気銘柄は初日に売り切れるので、募集開始の前に備えられます。配信は月に数回。いつでも解除できます。
確認メールをお送りします。メール内のリンクを開くと登録が完了します。



コメント