高金利通貨建て債券の勝ち筋と落とし穴——「二重においしい」が成立する3つの条件

高金利通貨建て債券の勝ち筋と落とし穴——「二重においしい」が成立する3つの条件 【外貨建て債】外債と売出債

トルコリラ建て、南アフリカランド建て、ブラジルレアル建て、メキシコペソ建て——証券会社の外債コーナーには、年10%前後、ときにそれを超えるクーポン額面に対して毎年支払われる利子の割合です。債券の価格が変動しても、この率は変わりません。の高金利通貨建て債券が並びます。この商品は「リスクの塊だから避けるべき」と切り捨てられがちですが、それは半分しか正しくありません。高いクーポンを受け取りながら通貨高まで取れれば、リターンは二重になります。実際、タイミングを選んだ投資家はそれを実現してきました。

この記事では、まず「なぜ高金利なのか」という構造を正直に分解し、そのうえでどんな条件が揃ったときに勝ち筋になるのか——機関投資家生命保険会社・銀行・年金基金など、大量の資金を運用するプロの投資家のことです。債券市場の売買の大部分を占めます。が新興国通貨を判断するときの物差しを解説します。


高い金利は「通貨安の前払い補償」

ある国の金利が年20%で、日本が1%なら、その差は19%です。この差がタダで拾えるなら、世界中の資金が殺到してすぐに消えるはずです。消えずに残っているのは、市場が「その通貨は将来それだけ安くなる」と織り込んでいるからです。

高金利の背景にはたいてい高いインフレがあります。物価が年20%上がる国の通貨は、購買力の面で毎年それだけ目減りしていきます。名目金利からインフレを引いた実質金利名目の金利からインフレ率を引いた、実質的な利回りです。高金利通貨の「うまみ」を測るときは、名目ではなくこちらで見ます。 詳しく見る →で見ると、高金利通貨の「うまみ」は見た目よりずっと薄い——これが出発点です。

実例として、トルコリラの対円レートは過去10年余りでおよそ10分の1になりました。この間のリラ建て債券のクーポンがどれほど高くても、円ベースの元本の毀損を埋めることはできていません。「クーポンで受け取った分も同じ通貨で受け取る」ため、通貨が減価すればクーポンも一緒に目減りする——複利で再投資しても、この構造からは逃れられません。


「発行体は世界銀行」の意味を正確に理解する

高金利通貨建て債の発行体債券を発行してお金を借りる企業・政府・機関のことです。債券投資は「発行体にお金を貸す」ことにあたります。には、世界銀行などのSSA世界銀行やアジア開発銀行などの国際機関・政府系機関の債券の総称(Sovereign/Supranational/Agency)です。信用力は最上位クラスで、外貨建て売出の定番です。 詳しく見る →(国際機関・政府系機関)が多く登場します(SSAについては外債の売出の記事参照)。ここで整理すべきは、信用リスク発行体が利子や元本を約束どおり支払えなくなるリスクです。債券投資の中心的なリスクで、格付けやスプレッドで値付けされます。と通貨リスクはまったく別物だということです。

  • 信用リスク(発行体が払えるか):世界銀行なら、リラ建てだろうとランド建てだろうと、約束した金額は間違いなく支払われます。デフォルト発行体が利子や元本を約束どおり支払えなくなること(債務不履行)です。債券投資で最も避けたい事態です。の心配は実質不要です。
  • 通貨リスク(受け取った通貨に価値があるか):支払われるのは減価したかもしれない現地通貨です。このリスクは100%投資家が負います。

発行体側の実務を補足すると、国際機関が新興国通貨建てで債券を発行する場合、調達した資金は通常スワップ金利や通貨のキャッシュフローを交換する取引です。リパッケージ債や為替ヘッジの裏側で使われています。取引でドルなどに転換されます。つまり発行体は通貨リスクを取っておらず、投資家の需要に合わせて「器」を提供しているだけです。「世界銀行が発行するのだから、この通貨は大丈夫」という推論は成り立ちません。


では、いつなら勝てるのか——プロが見る3つの条件

「金利差は通貨安の前払い補償」という理論を紹介しましたが、現実の為替は理論どおりに減価しない期間がしばしば続きます。その間、高いクーポンを受け取りながら通貨も下がらない——これがいわゆるキャリー取引低金利の通貨で資金を調達し、高金利の通貨で運用して金利差を受け取る取引です。為替が動かなければ金利差がそのまま利益になります。 詳しく見る →の利益で、条件が揃えば通貨高が上乗せされて「二重においしい」状態になります。さらに現地のインフレが落ち着いて金利が低下し始めれば、債券価格の上昇まで乗る三重の展開もあり得ます。条件は次の3つです。

  1. 実質金利(政策金利−インフレ率)が厚くプラスであること。名目金利20%でもインフレが25%なら実質マイナスで、通貨の減価は止まりません。逆に名目13%・インフレ5%なら実質+8%——世界の資金を引き寄せる磁力になります。見るべきは名目クーポンの高さではなく、インフレを引いた後に何%残るかです。
  2. 中央銀行がインフレに「先手」を打っていること。ブラジル中銀は2021年、米国に1年以上先行して大幅利上げに動き、インフレを抑え込んだ局面でレアルは主要通貨のなかで際立って強くなりました。メキシコも高い実質金利を維持し、ペソは長期の上昇局面を演じました。対照的にトルコは、政治の意向で高インフレ下の利下げを続け、実質金利マイナスを放置した結果、リラは一方通行の下落になりました。「トルコを除けば新興国通貨債は悪くない」という経験則の正体は、この中銀の規律の差です。国を選ぶ基準として「中銀がインフレと戦っているか、戦うことを許されているか」は最重要のチェック項目です。
  3. 米ドルのサイクルが追い風であること。新興国通貨は対ドルの資金フローに大きく左右されます。米国の利上げが最終盤を迎え、利下げに転じていく局面は、資金が金利の高い新興国へ還流しやすい追い風です。逆に米国が利上げを加速している最中は、実質金利が立派な国の通貨でも売られます。資源国通貨(レアル・ランドなど)なら資源価格、それ以外なら経常収支の改善も支えになります。

まとめると、狙い目は「当該国の実質金利が厚い × 中銀に規律がある × 米国の金融引き締めがピークアウトしていく」の交点です。3つとも公開情報(政策金利・インフレ率・FRBの局面)で確認でき、特別な情報網は要りません。逆に、この3条件のどれかが欠けた状態で「クーポンが高いから」と買うのが、冒頭の「前払い補償」をそのまま受け取る負けパターンです。

もう一つ、プロの感覚として付け加えると、この投資は満期まで持ち切る「債券投資」というより、通貨高の局面を取りに行く「トレード」としての性格が強い商品です。想定どおり通貨高が進んだら、償還満期を迎えて、額面のお金が投資家に払い戻されることです。を待たず利益を確定する(中途売却する)判断も、最初から選択肢に入れておいてください。


リスク管理の3原則

  1. 資産のごく一部にとどめる。高金利通貨は「当たれば大きいが外れも大きい」投機的なポジションです。中核資産の位置づけにはなり得ません。
  2. 単一通貨に集中しない。新興国通貨の急落は、その国固有の政治・金融政策が引き金になることが多く、事前予測はほぼ不可能です。持つなら複数通貨に分けます。
  3. 円ベースの損益分岐レートを計算してから買う。「償還までのクーポン累計で、何割の通貨安まで耐えられるか」を購入前に数字にしておきます。計算の考え方は為替リスクの記事と同じです。

同じ外債でも、米ドル建てと高金利通貨建てではリスクの次元が一段違います。ドルの世界の落ち着いた選択肢は米国債の記事で扱っていますので、利回りの数字だけで比べず、通貨ごとのリスクの性質から選んでください。

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